「Scope」という概念とその考案をした「GHGプロトコル」の概要を解説

皆さんは温室効果ガスの排出に関連した概念Scope1、Scope2、Scope3って何のことかご存知ですか?
そのScopeという概念の考案者がSBTiなのかそれとも他の組織なのか分かりますか?
SBTを理解する上で欠かせない概念、それがScopeです。
実は、私が初めてSBTという言葉に出会ったのも、グローバル展開しているある製造業の会社の年次報告書を読み進める上で、Scope1、Scope2、Scope3って何だろうという調べ物をしていた時でした。
そして、今回の記事を書くための調査をするまではその考案者がSBTiなのかそうではないのかを知りませんでした…。
そこで、2回目となる今回は、このScopeという概念が何かを簡単に確認した上で、Scopeの考案者がSBTiなのかそれとも別の組織なのかを解説していきたいと思います!

目次

Scope1、Scope2、Scope3とは

Scopeは温室効果ガス排出の算定範囲を分類するための概念

Scopeは、温室効果ガスの直接排出・間接排出に関し排出量の算定範囲の境界をはっきりさせて分類するための概念になります。

※英語の「スコープ(Scope)」には、「範囲」という意味があります。

●Scopeには、Scope1Scope2Scope3の3種類があります。

●それらの定義は環境省のサイト「グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム」の「サプライチェーン排出量算定について」によると、次のようになります。

Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

Scope1、Scope2、Scope3の総和は「サプライチェーン排出量」

●環境省の同じサイト「サプライチェーン排出量算定について」によると、Scope1、Scope2、Scope3の総和は「サプライチェーン排出量」と呼ばれることになっています。

●つまり、次のような算式で表現することができます。

サプライチェーン排出量 = Scope1排出量 + Scope2排出量 + Scope3排出量

Scopeという概念の考案者は誰か

Scopeという概念の考案は「GHGプロトコル」による

Scopeという概念の考案は「GHGプロトコル(詳細は後述)」によるようです。

●資源エネルギー庁のサイト「知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし『スコープ1・2・3』とは」によると、Scope1、Scope2、Scope3という分類方法は、「GHGの排出量を算定・報告するために定められた国際的な基準『GHGプロトコル』で示されているものです」と解説されています。

●実際に、GHGプロトコルの各種基準類の1つである「Corporate Standard(コーポレート基準:環境省訳)」(正式名称は「A Corporate Accounting and Reporting Standard(コーポレート向けの算定と報告の基準:星山仮訳)」)を見ると、「第4章 事業活動の境界の設定」のところにScopeという概念の導入目的や定義が記載されています。

GHGプロトコルのプロトコルは「科学的調査研究の際に従うべきルール」の意

●GHGプロトコルの「プロトコル(protocol)」は、「科学的調査研究を行う際に従うべき一連のルール」という意味であり、同義語一言で日本語訳すれば「ルール」「方法論」「基準」「手順」等になるかと思います。ただし、日本での用法としては日本語訳せずにそのまま「GHGプロトコル」とカタカナ表記することが環境省をはじめとして一般的なようです。

※余談ですが、「プロトコル(protocol)」には、「議定書」の意味もあります。「Kyoto Protocol」といった時は、「京都議定書」(1997年に京都で開催されたCOP3で採択された議定書で、温室効果ガスの排出量削減目標を定めたもの)を指すことになります。

●また、GHGプロトコルの「GHG」は、「Greenhouse Gas」の頭字を取った言葉で「温室効果ガス」を意味し、具体的には、二酸化炭素やメタン等の温室効果をもたらす気体の総称となります。

GHGプロトコルの運営団体の1つWRIはSBTiの運営団体でもある

●GHGプロトコル・イニシアティブ(単に「GHGプロトコル」と呼ばれることも多く、このブログではそれにならいます)は、WRIとWBCSDの呼びかけに賛同した企業、NGO、政府等からなる共同事業です。

●GHGプロトコルの基盤となる2団体の正式名称は、次のとおりです。

  • WRI (World Resources Institute:世界資源研究所、地球環境・開発問題の政策研究所)
  • WBCSD (The World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議、持続可能性と公平性を目指す企業のCEO連合体)

GHGプロトコルの運営団体の1つWRISBTi(SBTイニシアティブ)の運営団体にもなっています

●GHGプロトコルは、1998年に設立されました。その目的は、企業向けに温室効果ガス排出量の算定・報告に関する基準類を策定するとともにその基準類を普及させて国際標準化することです。

●GHGプロトコルは、2001年9月に初版の「コーポレート基準」を出版し、その後2004年3月にその改訂版を出版しています。その他にも各種の基準類を出版しています。

GHGプロトコルは「基準」でもあり「イニシアティブ」でもある

GHGプロトコルは、プロトコルの言葉の意味どおり「ルール」あるいは「基準」でもありますし、また、GHGプロトコル・イニシアティブとも呼ばれる「イニシアティブ」でもありますので、文脈によって「基準」かそれとも「イニシアティブ」か読み分ける必要があります。

※「イニシアティブ(initiative)」とは、「社会課題を解決するために新たに設けた構想・取組みで、その趣旨への賛同・参画者を広く求めていこうとするもの」といった意味をもつ単語です。

●例えば、GHGプロトコルの公式サイトの「About Us」を見ると、「What is GHG Protocol? 」のようなケースでは「イニシアティブ」という意味で「GHGプロトコル」という言葉を使用している一方で、「Who Uses GHG Protocol? 」のようなケースでは「基準」という意味で使用しているといった具合です。

●ですので、私のような初心者の方は慣れるまで注意してください。

サプライチェーン排出量という言葉はGHGプロトコルからの翻訳語ではない

「Scope」という概念はGHGプロトコルが考案した概念だとご説明しましたが、その関連用語である「サプライチェーン排出量」はGHGプロトコルからの翻訳語ではないと考えられます

●実際に、GHGプロトコルの「コーポレート基準」と「Scope3基準」(この基準の解説は次回以降に行いたいと思います)を見た限りでは、GHGプロトコルは「バリューチェーン排出量(Value chain emissions)」という似たような言葉は定義していても、「サプライチェーン排出量(Supply chain emissions)」という言葉は定義していませんし、それらの基準書の中では使用もしていません。

●GHGプロトコルによる「バリューチェーン排出量(Value chain emissions)」の定義は次のようになっており、意味するところは「報告を行う企業の事業活動に伴う上流と下流部分での排出量」になりますので、日本語の「サプライチェーン排出量」とは意味が異なります。

GHGプロトコルによる「バリューチェーン排出量(Value chain emissions)」の定義
Emissions from the upstream and downstream activities associated with the operations of the reporting company.

●「サプライチェーン排出量(Supply chain emissions)」の定義は、環境省が作成した資料としては、日本語資料「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」と、英語資料「 “Supply-chain emissions” in Japan」(英語定義は以下参照)の中で確認できます。

環境省による「サプライチェーン排出量(Supply chain emissions)」の英語定義
“Supply chain” is a flow of business operations in an industry with stages of raw-material procurement, manufacture, transport, sales and end-of-life treatment. GHG emissions sourced from the same supply chain are collectively called as “supply-chain emissions.”

●私の想像になってしまいますが、「サプライチェーン排出量(Supply chain emissions)」という言葉は、日本政府がGHGプロトコル等による国際標準化の動きを踏まえGHGプロトコルとの整合性を図った上で国内事業者の排出量の算定・報告を支援する中で使ってきた結果として日本国内で普及した言葉ではないかという気がします。

●いずれにしましても、サプライチェーン排出量がGHGプロトコルからの翻訳語であるかどうかに関係なく、GHG排出量をサプライチェーン全体でとらえていくというその根底に流れる考え方の重要性は論をまたず、国際的に一致する考え方ではないかと思います。

まとめ

2回目となる今回は、Scopeという概念の意味を簡単に確認すると共に、その概念の考案者であるGHGプロトコルの概要を説明しました。
正直なところ、私はGHGプロトコルの「プロトコル」が「科学的調査研究を行う際に従うべき一連のルール」という意味であることを把握するまで多少の時間を要しました。白状をすると、私の手持ちの英和辞書にはそういう訳語が掲載されておらず、オンライン版の英英辞書Cambridge Dictionaryの定義を見て初めて気付いたのです。しかも、GHGプロトコルが「基準」という意味で使用されていたり「イニシアティブ」という意味で使用されていたりと文脈によって違っていることも私の理解を妨げて遅らせました。
ここまで読んでいただいたSBT認定取得を目指す読者の皆さまが今後そういう時間のロスを省くことができるのであれば、私としてはとてもうれしく思います。
こんな感じで、このブログでは初心者による初心者のための分かりやすい解説を売りにして、回を重ねて少しずつ疑問点を解消していければと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。

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